第26章 事変
「猪野、猪野……!!」
「大丈夫……じゃねえけど、死んじゃいない」
「……よかった」
虎杖の腕の中から這い出して猪野に近づくと微かに息はあった。
だけどそれも時間の問題だろう。
早く家入硝子に診せなきゃ。
「ちょっと殴ってくる」
私と猪野がやられたことに腹を立てた虎杖だったが、伏黒の言葉に思いとどまってくれた。
仇を取ってくれようとしてくれているのは嬉しいけど、伏黒の言う通り私達の最優先事項は悟の奪還だ。
「"帳"は上がった。上の連中はもう逃げた後かもしれねぇだろ。猪野さんを連れて一度外に出るぞ」
そう簡単に納得はできないだろう、虎杖的には。
だけど、私は伏黒の意見に賛成だ。
正直、あの男ともう一度対峙してたとしても勝てる見込みは一つもない。
それどころか今度こそ殺されるだろう。
あの男から人を殺すことに対しての戸惑いみたいなものを感じなかった。
迷いなく、躊躇なく、容赦なく、確実に殺しに来る。
「猪野さんとを頼む。俺は先に駅に向かう」
「は⁉」
「……分かった。でも」
「"死んだら殺す"だろ?」
「ちょっと待て!!私は平気だ!!」
「いや、オマエも治療を受けろ。結構酷いから」
伏黒は静かに口を開いた。
どうやら私は私の今の状態に気づいていなかったらしい。
左半分、血まみれだと言う。
視界はちゃんと見えているから眼球には問題なさそうだが、左耳は潰れたのか吹き飛んだのか、原形をとどめていないほどぐちゃぐちゃになっているという。
左頬もまた肉が抉れている状態らしい。