第26章 事変
そうか。
このババアも降霊術の使い手か。
しかも猪野と違うのは、降霊対象の一部を飲み込むことでその体に憑依させること。
それを担ってんのがあの男だったのか。
だけど、そこが問題なわけじゃない。
私も猪野もその場を動くことができなかった。
目の前の男から放たれるプレッシャーはジジイやババアと比べ物にならないほど大きい。
有名な術師……ではないよな。
呪力が感じられない。
のに、なんだよこれ……。
立ち姿だけで分かる。
この男、クソ強い。
悟と同等か、それ以上か……。
やべえ、怖い。
動けずにいる私とは違い、猪野が攻撃を仕掛けようとした。
が、気付いた時には猪野は目の前でボコボコに殴られていた。
は……?
いつ、ここまで、移動してきたんだよ……。
猪野の胸倉を掴んで、容赦なく顔面を殴り続ける。
このままじゃ猪野が死んじまう―――!!
「"開錠"!!」
男の足元を崩し、なんとか猪野だけでも救出しようと試みた。
が、足元が崩れる前に男は距離を取った。
だから、速えよ!!
なんで避けれんだ、クソが!!
だけど、猪野から手を放してくれて助かった。
地面に横たわる猪野は顔面がぐちゃぐちゃで、鼻も歯も折れてる。
早く治療しないとまじで死んじまう。
私は"破錠"で周りのコンクリートをぶっ壊し、それを目くらましに使い男の足元に鍵を撃ち込みペンタゴンを作った。
「"封鎖"」
殺すつもりは毛頭ない。
が、しばらくは大人しくしていてもらおう。
ペンタゴンの中は空気が薄い。
それ以上薄くしたら死んじまうけど、人間だから意識を飛ばす程度の酸素濃度の低さ。
しかも私が術式を解かない限り、内側からも外側からも打ち破ることはできない。
「しばらくその中にいろ」
その間に、私は猪野を安全な場所に―――。
バリンッ。
「え……?」
嫌な音がして、振り向いた。
私の目に映ったのは、私の術式をいとも簡単に破った男の姿。
にやり、と笑う男に背筋が凍った。