第26章 事変
猪野の術式。
それは降霊術「来訪瑞獣」。
四種の架空の瑞獣(獬豸、霊亀、麒麟、竜)の能力を降ろして使用する術式。
発動条件は顔を隠し、自らが霊媒となること。
来訪瑞獣一番、「獬豸」はドリルのような形状をしていて、追尾もできるらしい。
しかも対象の腕位なら簡単に抉れるほどの威力。
こいつ、マジで2級術師か?
普通に1級でもおかしくねえ強さじゃねえか。
「婆ちゃん、今の……」
「ああ。"奇遇"よの」
何かを話している呪詛師たち。
何が奇遇なのか……。
「二番"霊亀"」
「"開錠"」
猪野は腕に呪力の水を纏い、私は地面に鍵を差し込んだ。
地面に亀裂が走り、呪詛師たちの足元が崩れる。
バランスを崩したところを猪野の追撃。
2人まとめて叩ければいいが、そこまで弱くはない。
大して強くもねえけど。
「夏油!!男は俺が相手する!!」
「わかった!!」
これはサポートに回るよりも1対1の方がいいと判断した猪野は、私にそう指示を出してきた。
そうとなれば、"封鎖"で動きを止めた方が早いな。
ババアの足元に鍵を差し込もうと投げた。
しかしそれは間に割り込んだ男の手によって阻まれる。
他の術式も全て男が邪魔をしてババアに攻撃をするどころかうまく術式が発動しない。
若い男を猪野が、ババアを私が相手して手っ取り早く終わらせる算段だったのに、男は私の攻撃も猪野の攻撃もどちらも受けやがる。
なんでそこまでしてババアを守っているんだ。
その間ババアはなんかブツブツ言ってるし……。
「猪野、早く仕留めよう。じゃねえとマズい気が……」
だが、時すでに遅し。
ババアの雰囲気が大きく変わった。
「もうええぞ」
「分かってるよ、婆ちゃん」
男はそう言うと、何やら口に含んで飲み込んだ。
猪野が攻撃を仕掛けるけど、もうそれは手遅れだ。
「"禪院甚爾"」
ババアがそう呼んだ瞬間。
男の姿が全然違う人間に変わった。