第26章 事変
悟が封印された今、私が今やるべきことはこの場所から離れる事。
私一人で特級2人と兄の身体を乗っ取った男と受肉した九相図を相手にできない。
どう考えても負けが見えている。
それに悟が封印されたことを他の人たちに知らせなければいけない。
そう思った時。
「それにしても滑稽だね」
喉奥でくっくっくと笑う偽物。
何がそんなにおかしい。
奥歯を噛みしめながら睨む。
「夏油傑……。兄を殺した男を好きになるなんて。これが笑わずにいられるかい?」
「え、この子五条のこと好きなの?」
「そう。しかも付き合っているみたいだよ」
「あっは。何ソレ。本当に人間の考えることってわかんないなぁ」
普通、憎い相手を好きになって付き合う?
全身から刺すような汗が噴き出した気がした。
真人の指が、真人の口が、真人の眼の動きが。
全てが獲物を捕らえた蛇の舌なめずりに見えてしまった。
私と真人の距離はあると言うのに、喉元に手を掛けられているような。
病のように知らないうちにぬるりと奥底へ入り込まれていくような。
そんな恐怖が私を襲った。
一度対峙した時にはこんな恐怖を抱かなかったのに、なんで今になって……。
がちがちと鳴る歯を必死に抑えて、強がりで虚像の見栄を張った笑みを零した。