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浄穢

第6章 6


夏油君の解答に心が悲鳴を上げる。
非術師には私も含まれている。

猿は賢い生き物だが良い意味で使っていないのは明白だ。
それを優しく穏やかな声色で非術師の私に躊躇いも無く告げる。
呪力も無く、呪霊も見えない一般人に対する侮蔑、差別、嫌悪、拒絶…
そして自分の能力に対する選民意識を強く感じる。
夏油君は元々選民意識はそれなりに強かったと思う。
自分が特殊能力を持つ強者の立場であるという自覚故に弱者生存という思想を掲げていた。
持つ物は持たざる者を助ける義務があるという考え方は時に強者の傲慢とも言える。
ただ夏油君は有言実行の人だった。
だから昔の彼を偽善的だとは思わなかった。

「私は術師だけの世界を作ろうと思ってる」

「術師だけの…世界?」

「そう、非術師を皆殺しにしてね」

「え?」

絶句するとはこういう事なのだろうか…
リアクションが取れない。
そんなに優しい声で滑らかに非術師の自分に告げて来る夏油君は私の知っている夏油君とは別人だ。
もしかすると、これが彼の本質だったのかもしれない…
絶望的な気持ちになり、先ほどより長い沈黙が流れる。

「名前…」

その沈黙を破ったのは夏油君だった。
怖い…彼が怖い。
怖くて彼の顔が見れず、俯いているのが精一杯だった。

「…っ!?」

突然、冷たい指が顎に添えられ彼と向き合うように掴まれる。

「これが今の私だ」

“ドクンッ”

視線の先にいたのは学生時代のアップから髪を下ろしハーフアップに結い直した夏油君。
その姿は自分と同い年とは思えない程、完成された大人の雰囲気を醸し出している。

“ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…”

「…ぁ…あのっ…」

先程までとは異なる緊張で呂律が回らない。
視線を絡め捕られ逸らす事が出来ない。
逃げられない…

「ようやく捕まえた」

「…げ…と…くん…」

“ドクンッ…”

彼の言葉で捕らわれた事を自覚する。
私の知っている夏油君は何処にもいない…
目の前にいるのは全く知らない男性。

「名前…私はね…猿が嫌いなんだ」

あぁ…やっぱりそうだったんだね。
最初から言ってくれれば良かったのに…
任務の為に私と親しくなる必要があったって事は分かってたよ。
でも夏油君は優しいから社交辞令の連鎖から抜け出せなくなってたんだよね。
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