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浄穢

第4章 4



「指輪…ずっと着けてくれてるんだね
 嬉しいよ」

「…」

「でも…その指は私が着けて欲しかった指じゃない…」

“ドクンッ…”

夏油君の言葉に心臓が痛くなる。
握られた右手が強張り触れられている事が怖くなる。
何処に向かっているのかも分からない。
此処ではない何処かへ、されるがままに導かれてゆく…
土地勘がある筈なのに知らない場所を歩いているみたい。
足を止めて拒まないと…夏油君を拒否しないと…

そんな事…ちっぽけな私には出来ない。

「…右手の方が丁度良かったの」

「なら仕方ない
 人間の体は左右で大きさが多少異なるからね」

「…」

「意味が無いから会わなかったんじゃない
 意味があるから会わなかったんだ…」

沈黙する私に夏油君が真剣な声で切り出す。
夏油君は全てに意味を求める。
時には意義も大儀も…

「本当に御両親まで殺したの?」

「あの人達だけ特別…という訳にはいかないからね」

「親殺しに意味があるの?」

「意味も無く親を手にかける方がどうかしてるよ」

正論を返され何も言えなくなった。
彼は本当に両親を殺していたという事実に怖くなる。
聞いてはいけない事を聞いてしまった。
正直、集落に関しては余程の事があったのだろうと割り切る事は出来た。
原因の調査で集落の人々が彼の怒りに触れたのだろう。
私の母校で起こった事のように…

「…ごめんなさい」

「名前にはきちんと話さないといけないね」

「…いいよ…無理しないで…」

「あの公園で話そうか
 ベンチもあるしね」

そう言って夏油君が目の前に現れた公園を指さす。
大きな木が鬱蒼と茂り、塗装の剥げたジャングルジム、ブランコ、鉄棒、砂場、水飲み場のある古めかしいタイプの公園。
塗装の剥げかけた青いベンチもある。

「…うん」

「誰もいないし丁度いい」

公園に足を踏み入れれば砂のジャリジャリとした感覚が慣れない草履を介して伝わってくる。
夏油君の言葉に周囲を見渡せば確かに誰もいない。
完全に成人式の喧噪から離れていた。

「…」

「どうぞ」

ジャケットの内ポケットから出したハンカチをベンチの上に広げると座るよう促される。
どうしてこんなに気が利くのだろう…
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