第3章 3
「中学時代の友達?」
「うん…まぁ…
全然会ってなかったから今はどうか良く分からない」
「そっか…」
「…何で此処にいるの?」
「名前に会いに来たんだ」
“ドクンッ…”
降って来た答えに心臓が過剰反応する。
私は怖くて俯いたまま夏油君の表情を見る事が出来ない。
先程のような作り笑顔なのか、それとも無表情なのか…
穏やかで優しい声色から素直に表情を連想できるような精神状態ではなかった。
「…何回も電話したんだよ…メールだって…
夏油君…元気なかったから…心配したんだよ…」
「済まない…生活環境を整えるのに時間が必要だったんだ」
「硝子と五条君には会ったのに?」
「アレはちょっとした賭けみたいなものだったんだ」
「夏油君は意味のない事はしない」
泣きそうだった。
目の前が涙で曇って見えない。
夏油君は任務先の集落の人々を皆殺しにして、自分の両親すら手にかけ行方をくらませた。
何度も連絡したが返事が返ってくる事は無かった。
硝子が知り得る限りの事を教えてくれたけど、私には何も分からなかった。
暫くして硝子と五条君が彼の離反直後に一度だけ会っていた事を知り、彼の言葉も行動も全てが偽りだったと思うようになった。
私には一度も会ってくれなかった…
あの時のショックと胸の痛みは今でも鮮明の覚えている。
私は夏油君にとって何の価値もない人間だったのだ。
「それなら名前に会わなかった事には大事な理由がある筈だよ」
「…ぐすっ…そんなの…屁理屈だよ…
夏油君の事…ぐすっ…信じてたのに…」
涙が零れ落ちコンクリートの地面に滲みを作ってゆく。
零れた瞬間だけ視界がクリアになるがすぐに涙が溢れ出してくる。
やっぱり泣いてしまった。
「人の少ない場所で話そう
ここは“猿の匂い”がキツ過ぎるからね」
「?」
猿?
一瞬だけ低くなった声色と奇妙な表現に警戒心が強くなる。
私の大好きだった夏油君はもう何処にもいないのかもしれない。
「行こうか」
「…っ!?」
優しく私の手を取ると、ゆっくりと歩き出す。
“ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…”
2年ぶりに触れた夏油君の手は昔と変わらず大きくて温かい。
ゴツゴツしているのに優しくて安心する手。
大好きだった手。
だけど今は怖くて握り返せない。
また捨てられるのは嫌だ…