第11章 11
“ドクンッ…”
真剣な表情で発せられた言葉に落ち着いた筈の心臓が暴れ出す。
“心が搔き乱される”とはこういう事なのだろう。
「…夏油君…好きだよ…
ぐすっ…今でも夏油君が好き…
私…夏油君以外の男性(ひと)を好きになんてなれない」
術師と非術師という異なる属性が私と夏油君を分断した。
それは正しく“呪い”だ。
私は呪いによって好きな人と分断されたのだ。
“呪い”が憎い…
「君は残酷な女性(ひと)だ…」
「ありがとう夏油君
素敵な思い出を沢山くれて…色々な経験をさせてくれて…
ありがとう…」
会話がちぐはぐで噛み合わない。
私と夏油君の感情や解釈に大きな乖離がある事は明白だった。
最後まで会話がかみ合わない…
それは私と夏油君は噛み合わない存在だと突き付けられているかのよう。
“お前は夏油傑とは釣り合わない”と呪いが私に告げている。
分かってるよそんな事…最初から分かってるよ…
「ずっと私の味方でいて欲しかった」
そう言って私に背を向けると彼は去ってゆく。
夏油君の表情に笑顔や穏やかさは無かった。
呆気ない別れに、泣きながら呆然と彼の背中を眺める事しか出来ない。
涙を拭う右手にはめた指輪の感触がやけに生々しくて冷たかった。
私だってずっと夏油君の味方でいたかったよ。
「お~い、聞いてるか~?」
「…っ!?」
ハッと我に返れば五条君が大きめの声で私に呼び掛けていた。
「聞こえてなかっただろ」
「…ごめん」
「何が起きてるか知りたい?」
「…ぁ…えっと…」
五条君の質問に言葉が詰まる。
長身を折り曲げ、私の顔を覗き込むと煽るような眼差しを向けて来る。
此処に来るまでに私に何があったのかを彼は予想出来ている。
「残穢だよ」
「?」
「傑の残穢がベーーーーッタリ纏わり憑いてる」
「…夏油君の…ざんえ?」
「傑が発動させた術式の残り香みたいなもんだよ
未練タラタラの濃ゆ~い残穢
分かり易く言うと結界みたいに傑の強烈な残穢が名前を覆ってる
もう術式のレベル!
だから“少しでも見える奴”なら強過ぎる残穢に当てられて速攻で気絶する
心得のある奴でも硝子みたいになっちまう」
「術式を使ったって事?」
「もしくは術式を応用した“何か”が発動した…」