第2章 一虚一実
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少女は案内された屋上に出た。錆びた手すりに近寄って下を見ようとしたとき、急に声がした。
「マゼンダさん。」
驚いて声のした方に視線を向けると、微かに響く足音と共にふたつの影が暗闇から姿を現した。
一人は背の高い男の人。もう一人は、どこか存在の仕方に違和感のある女の人。二人はいずれも服の色は黒だった。
「はじめまして。名倉です。」
「本当に、名倉さん?」
「すーっといなくなりたい、名倉です。」
その言葉に安心感を持ったのか少女は微笑むと数歩彼らに近寄った。
「はじめまして。もしかして、助けてくれたの名倉さんですか?」
「はい、僕です。」
「ありがとうございました。」
少女は頭を軽く頭を下げると、名倉となのった男の傍にいる霧のような女に視線を移した。その視線に気づいたのか、男は口を開いた。
「彼女は僕の連れです。見ての通り、何も言いませんから。それより…怖かったですか?」
「…はい。」
「大変でしたね。」
「えぇ、でもどうして分かったの?」
首をかしげる少女に、男は隠すことなく全てをぶちまけた。
「だって、彼らにマゼンダさんを拉致するように言ったのは僕ですから。それをわざわざ助けるように言ったのも、僕です。」