第30章 裏切り
「母さんには、別の男性が……いる。」
この事実を、やっと家族で共有できた。
お父さんが大きなショックを受けているっていうのに、私は不謹慎にも心の荷が軽くなる。
「……私だって、仕事や家庭のことでストレス溜まってたんだもの。魔が差しただけ。
でもま、アナタとは前から別れたかったからちょうど良かったけど。」
まるで反省してない母が、憎かった。
お父さんの人生を、壊したくせに。
“お兄ちゃん”の人生を、弄んだくせに。
「……お母さん、その言い方はあんまりじゃない?」
私は堪えきれなくて、母に噛みついた。
「お父さんのこと、大切じゃないの?」
私にDNAを分けたその顔を、キッと睨んだ。
「それに“お兄ちゃん”のこと。本人から聞いたよ、全部。」
ごめんね、“お兄ちゃん”。
勝手なことしちゃって。
でも私にしては珍しく、黙ってられないよ。
「夢……どうして、そのこと……?」
「虐待したんでしょ?自分達の思い通りにならないからって。彼の人生をめちゃくちゃにしかけた。」
「だから……なんでアンタが……?」
「私のバイト先。お母さんとお茶したあの喫茶店のマスターが“お兄ちゃん”なの。顔も覚えてないくらい、興味がないんだね。」
「……そんな、ことって……」
父と母は、明らかに動揺していた。
“死んだ”と刷り込んでいた私から出た真実。
まさに、幽霊でも見たような顔だ。