第30章 裏切り
父からの呼び出しで少し遅れることを蜂楽に伝え、駅から自転車に乗る。
“このタイヤ、刃物でやられてるよ?”
パンクを直してもらった、自転車屋さんが言ってた。
それを聞いた時はゾッとしたけど、久しぶりに蜂楽と会えたことと無事に試験を終えられたことで、不思議と恐怖心は無かった。
なにかあれば、マスターも助けてくれるし。
でも、話って……なんだろう?
やっぱり医学部へ行け、とか?
せっかくタイムカプセルを掘り出せたのに。
せっかく自分の色を見つけられそうなのに……。
マイナスなことを考え出すと、自転車を漕ぐ速度が自然と遅くなる。
ダメ…何と言われようと、私は私の選択をするんだ。
さっさと話を終わらせて、少しでも早く蜂楽の家に行く。
“一日一顔”のクロッキー帳。
最後のページに描かれた私みたいに……
笑って“ただいま”って……言うんだから───。
「……お父さん。来たよ。」
父と母は、ソファに離れて座ってた。
母の車も車庫にあったから、いるのは判ってた。
父と母の顔を見たのは、夏休み直前に“蜂楽家に住みたい”と言い出した時以来だ。
母の不倫現場で“あの声”だけは聞いたけど。
「結論から言う。
母さんと……離婚することになった。」
父の重い言葉を、私は存外すんなり受け入れた。
むしろ、そうして欲しいとすら思った。