第31章 挨拶
数日後。俺の体が完全に快復した頃、誰もいない更地でサムットとミカエルは元の世界に戻るゲートを開いてくれた。
ミウがまたあの時みたいに泣きじゃくるかと心配はしていたが、今回は大人しかった。なんだか妙に寂しさを感じてむず痒い思いを抱いていると、ミカエルが俺の心境を知ってか知らずか、メンさんにお別れの挨拶しないの? と聞いた。
すると、ミウがこんなことを言うのだ。
「お別れの挨拶はしない。だって、メンにはもう一回会いそうだから」
俺はドキリとした。その言い方は子どものよくある妄想でも、強がりでもなく、俺を真っ直ぐ見つめたまま言ったミウの言葉だったから。
……ミウは知っているのだろうか。未来の自分が過去にタイムスリップしたことを。
俺は何も言わずに、そうだなとだけ返して頭を撫でた。嬉しそうに目を細めたミウの顔を見ると、これが見納めか、なんて考えてしまって俺が泣きたくなってきた。
「メンさん」
サムットに呼ばれて俺はそろそろと踵を返す。相変わらず、エンドの空みたいな色をしたゲートだ。俺はもう一度振り向き、片手を上げた。
「じゃあな、ミウ!」
俺は、星空色のゲートへ、足を踏み込んだ──。