第26章 目的地
「メン、あれだよ!」
「は?!」
吹き飛ばされながらミウが叫んだ。俺はミウが指すものを見て驚かずにはいられなかった。
月だ。
確かに周りには変な球体があるなと思ったが。まさかそれはみんな隕石で、上に吹き飛んだら月に来ましたなんて誰に話しても信じないだろう。
「メン、ちゃんと持ってね」
「あ? ……ああ」
俺が月に着地しようとした時、ミウに言われてクリスタを手の平にねじ込むように渡される。……これが、ミウの心配の仕方なんだろうなと思うと俺は否定出来なくなる。ミウはちゃんと優しいんだ。俺よりずっといい大人になるんだろうな。
と思考を巡らすのも束の間、俺は月に着地した。某先生から聞いていた通り、あちこちにクレーターがある白っぽい地面が続いていて、こうして間近にいると球体であることを忘れそうになる。
だが、辺りを見回してもクリスタはない。どういうことだとミウに聞こうとして、目の前に誰かが突然現れた。
「お前か……我が一家のシキタリを邪魔するものは……」
と言うのは、ガリガリに痩せている髪の薄いじぃさんだった。だがソイツは、サムットとミカエルが戦っていた村長じぃさんとは違う。それにこの声、どこかで聞いたことがある。
「あいにく俺は、クリスタ一家とやらではないんでね」
「ならなおのこと! なぜそのガキを庇う!」
俺の回答に、髪薄じぃさんはイライラした様子でミウを指差した。人を指差しちゃいけねぇって親に言われなかったのかよ。それともお前は、神にでもなったつもりか……おっと、今俺の腕にいるミウは、神の生まれ変わりだったな。
「子ども守るのに理由が必要なのかよ、じぃさん!」俺は負けじと大声を返した。「俺はお前らの世界のことはどうでもいいんだよ!!」
「一人のために多くを犠牲にするというのか……」ドスの効いた声がますます悪役っぽかった。「今ならまだ間に合うぞ……その神の生まれ変わりを大人しく渡したらお前には危害を加えない」
本当かよ。漫画もゲームも、それで上手くいった試しがないんだわ。てかこの状況、前にもあったな。
「メン……」
俺に抱きついたままのミウが、小声で呼んできてぎゅっと服を掴んできた。怯えている。それだけは分かった。