第9章 写真
次の朝、いつものように彼は公園で私の登校を待っていた。
私はシカトしてダッシュで通り過ぎた。
…
昨日、家に帰ってもう一度あの写真を見た。
キスしてる私。
彼の瞳を見つめて…彼のことが好きでたまらないって顔だった。
彼に背中から抱きしめられた感触を思い出す。
彼の体温と…強い力と…硬い感触と…耳元にかかる熱い息。
そして私の名前を呼ぶ声。
もう一度あの声で私の名前を呼ばれたら、私はきっとなんでも許してしまう。
…
「ゆめバイバーイ」
放課後、連れだって帰るクラスの友達に声をかけられる。
いつも私は逢坂くんと帰るから。
「待って、私も一緒に帰っていい?」
私がそう言うと彼女たちは顔を見合わせた。
「彼氏は?」
「ん…ケンカした」
私がそう言うと、彼女たちは大げさにウンウンと頷く。
「わかった。飲みに行こう!」
「マック行く?」
「いや、こういうときはスイーツでしょ!」
…
ミスドでドーナツを頬張りながら質問責めに合う。
「いつもラブラブなのにどうしたの?」
「何が原因?なんでケンカしたの?」
…全部は話せないけど。
「実は…なんか逢坂くん。エッチなことばっかりしたがって…。なんかちょっとイヤ…みたいな」
みんなが大きく頷く。
「あるある〜」
「え〜でも逢坂くんてそんなふうに見えない〜」
「男子はみんなそうでしょ〜?ていうかムッツリってやつ?」
「あ〜文芸部だもんね。ムッツリって感じ〜」
「それ文芸部関係なくね?」
…
みんなに話を聞いてもらい、みんなの彼氏や片想いの話を聞いた。
昨日の夕方から、今日の授業中もずっとモヤモヤしてたけど、
みんなもいろいろあるんだなぁ…
と思うとちょっと気がラクになった。
…
家で机に向かって宿題をする。
つい引き出しを少し開けて、しまってある写真を覗いてしまう。
捨てるために持って帰ってきたのに。
彼の声が聞きたい。