第8章 いつも
「逢坂くん!今日は早かったね」
私は駆け寄って声をかける。
彼は一瞬立ち止まり、そしてすぐにまた歩き出した。
「…早かったら何か問題でも?」
ちょっと不機嫌そうな声で彼が言う。
「え?別にそんなことないけど…」
私はちょっとびっくりして答える。
なんか部活で嫌なことでもあったのかな。
逢坂くんが私に八つ当たりするなんてめずらしいけど…とりあえずちょっと黙っておこう。
「どうして図書室にいないの?」
彼が口を開く。
あ、それか。
「ごめん!なんか今日図書室暑くて。ジュース飲みたくなっちゃって」
私は彼の顔を覗き込む。
「ごめんね〜。メッセすればよかったよね。友達としゃべってたら忘れちゃって」
彼が私を不機嫌な顔で見る。
「部活に入らないでチャラチャラしてるから、あんな不良に絡まれるんだよ。やっぱり今からでも文芸部に入ろう?」
彼の言葉に私はちょっとカチンとくる。
「別にチャラチャラしてないし…北城くんは別に不良じゃないよ。私、一緒のクラスなの」
「そんなことは知っているよ!」
彼がちょっと声を荒らげる。
私もちょっと感情的になってくる。
「じゃあ何?
もしかして北城くんとしゃべってたことを怒ってるの?
同じクラスだったらそりゃしゃべるでしょ?
逢坂くんだって文芸部の女の子としゃべったりするでしょ?」
「…そんなことが気になるのなら、なおさら君も文芸部に入ってずっと僕のことを見張っていればいいだろう?」
ダメだ。完全に頭にきた。
「私はそんなこと気にしてないっ!気にしてるのは逢坂くんでしょ?
ていうか見張るとか…なんでそんな発想になるの?」
彼は答えず黙って歩き出した。
…
結局その後一言も話さず私の家に着いた。
「着いたから。帰るね」
一応それだけ伝えて私は家の扉を開ける。
チラッと振り返ると逢坂くんは私の方を見てた。
怒ってても一応いつものように、私が家の中に入るまで見守ってくれるみたいだ。
私はそのまま扉を閉めた。