第2章 青薔薇の呪い
物心がついたばかりの頃に両親と祖父母が死んだ。
残ったのは私と、ほとんど交流のなかった曽祖父だけ。
徳川埋蔵金でも埋まっているのかと思うほど、秘密裏に存在する地下研究所のドクターという立場は胡散臭さを増している。
だけど、私と同様に継国家始祖である女の先祖返りを証明する瓜二つの顔が、私の血族なのだと嫌でも理解させられた。
“ひいおじいちゃん”とも“大お祖父様”とも呼ぶのはなんか嫌だったのでクソドクターと呼ぶことにしている。
親しき者にも礼儀ありとは言うが、この男が私に礼儀云々を用いたことはないためおあいこである。
「……もうすぐフライトだ。切るよ」
「…クソドクター、私は決めた」
「私はスポーツドクターになる」
電話越しでもニヤニヤされているのを感じる。うざったい。
ああそうだよ、あんたの思っている通りだ。
直前までいた観客席で、ミヒャエル・カイザーの試合を観て決めたことだ。
「そのために教わる師も、継国のために座る高校の席も、進路は全部私が決めて私が用意する。私の縁は私が紡ぐ。あんたは黙って見てろ。……ああ、赤飯出されたら暴れて施設壊すからな」
恩はある。
育ててくれた恩、ヨーロッパにいる医者達とコンタクトを取り付けてくれた恩、“いろんな人達”から守ってくれた恩。
だからこそ、これからはいらない。
あの人の私欲のためのデータならいくらでもくれてやる。
代わりに、私の道を邪魔することは許さない。
私の心を悟ることも許さない。
それが、私にできる最大限の親孝行だ。