第2章 青薔薇の呪い
「ミカ」
「っ!」
短く呼ばれた愛称で、の黒い瞳が視界に映った。
どうやら激痛のあまりに意識がなくなっていたらしい。
は俺の左腕を指でトントンと指した。
左腕を見ると、棘の入った蔦が二重螺旋に刻まれていた。
薔薇だ、とすぐに分かった。
「花は首にある。鏡見るか」
「…あとででいい」
「そう」
鏡を見なくても分かる。
首元には2輪の青薔薇、左腕全体には巻かれた棘の蔦。
目で見る前にそれを感じ取れた。
ありえないことが起こっている。それだけ、のほんの数滴の血に込められた呪いが凄まじいのだ。
(ああなんて__クソ心地いい)
この不自由が心地いい。
を自分のモノにしたいけど、それ以上にに呪われた、縛られたこの身体が気持ちいい。
漸く生を受けた感覚さえする。
「お前に呪われて良かった」
「……」
は若干眉間に皺を寄せて、返事の代わりにキスを落とした。
からすることは稀なので少し驚いた。
「痛くして悪かった」
「痛くないようにできるものなのか」
「いや、普通は死ぬ」
「おい」
さらっとものすごいことを言われた。
先程“生を受けた”と比喩したが、比喩と言い切れなくなった。
「不老不死とか美貌とか若返りとか、私利私欲で継国の血肉を貪った人間は皆死んだらしい。例外は初めて知った」
「俺を殺す気だったのか。それはそれで良いが」
「嫌がれよ。……なんとなくあなたは死なないと思った。それだけ」
多分だが、死んだやつらと俺の違いは血肉の主が望んだか否か。
俺もも、美醜や永遠の命に欠片ほどの興味もない。
そして俺はに生きたまま縛られてたくて、命懸けの賭けに勝った。
それは、もまた俺を縛るつもりだったという照明。
情けだろうがなんだろうが構わない。
「」
「ん」
「明日は朝から試合がある」
「知ってる」
「10時ギリギリまで俺を見ていろ」
「…分かった」
「名前はリーゼロッテ(Lieselotte)がいい」
「…普通は女側がいち早く察知するやつじゃないのかそれ。……考えとく」