第3章 白衣の看守人
「……氷織くんと話してたんですけど」
「ん?」
「2人でゴールボーナスポイント3点分使って、貴女に頼みたいことがあります」
「何?」
まさか初めてのボーナスポイント使用相手が二子一揮と氷織羊だったとは、も想定外だった。
乙夜あたりが既にやってそうだが、彼は外出と一緒に使いたいためポイントをまだ貯めていたのだ。
「さんって声の使い分けうまいですよね。真面目なこと言ってる時と冗談言ってる時の声のトーンが違う」
「職業柄必要だからな。それがどうした」
「落ち着いている時が早見○織さんと坂本○綾さんに似ててちょっと怒ってる時が花○香菜さんに似てて焦ってる時が喜多○英梨さんに似ててでも沢城み○きさんも捨てがたい」
「なんて?」
ノンブレスで言われた早口は、いくらマルチリンガルなでも聞き取りにくかった。
だがところどころ聞こえた人名が知っている声優なので、「好きな声優と声が似ている」と言いたいのだろうとあたりをつけた。
「私の声をアテレコしたいってことか?」
「そうです!」
さっきまで若干暗かったのに明るくなった。
切り替えができて良いことだ。
「時間はどれくらいかけたい?」
「1〜2時間はほしいです」
「それくらいなら、空き部屋の使用許可を氷織羊と名前を連ねて申請してくれれば、私が2人のいる時間と場所を見れるからその部屋に向かえる」
空き部屋とは、監獄内にいくつか存在するプライベート空間だ。
主に1人になりたい時に使われるので、二子なんかはスマホで見たい動画を大音量で流したい時に使ったことがある。
「あっさりOKがもらえるとは思いませんでした」
「コンプライアンスに基づく範囲内ならOKって書いたでしょう。法律とモラルを守る限りならなんでも構わない。それに、」
「?」
「味方になると言った。その誓いは違えない」
真面目。律儀。
彼女を表現する言葉はいくらでも浮かぶが、どれもしっくり来ない。
それでも、が本心からそう言っているのは分かる。
「…乙夜くんに結婚してとか言われたらどうするんですか」
「モラルを守る限り、と言った」