第3章 白衣の看守人
「“仮説”と言ったのは、前例がまだ1人しかいなくて、しかもその人は疾患と言えるほど視力が著しく下がったわけじゃないから。実際今は0.9くらいだった」
「…その人のことはどうやって知ったんですか」
「たまたまルームメイトだったんだ。数年ぶりに会った時に視力が落ちたと知って、私の中でそういう“仮説”ができた。その人もあなた達と同じスポーツプレイヤーで、頭と身体を大事にしていたから、まさか目に影響が出るとは予想できなかった」
「失明するわけじゃないんですよね」
「勿論。ゲームをやりすぎるとか、暗いところでテレビを見るとか、それで目が悪くなるっていうことと似たようなことが起こってると思う。失明はしないけど、あなたにとっては痛手でしょう。私が見る限り、暫定的に監獄で一番目が良いのはあなただから」
その通りだった。
ブルーロックのトップと比べると、二子のフィジカルはやや見劣りする。
それでもここまで食らいついているのは、人一倍視野が広いのと、それを利用できる頭の回転の速さが武器だからだ。
サッカーに詳しくないですら一番だと認めたこの武器が弱くなるかもしれないと聞いて、怖くならないわけがない。
「二子一揮」
名前を呼ばれた。
たったそれだけで、二子の中で大きくなっていた不安が離散した。
それはという女がそうさせる力を持っているからか、今の二子には分からない。
「私は、この青い監獄にいるストライカーの味方だ。絶対にその武器は失わせない」
否、今分かった。
本来のカリスマ性と、医者として自分達と築いてきた信用が、この言葉に説得力を持たせているのだ。
「…僕は何をすれば良いですか?」
「大きく二つ。一つ目は、これからも定期的に検査を受けること。二つ目は、朝夜にこれから教える目のマッサージをすること。それが日々のメンテナンスになる。こっちはエビデンスがあるから効果は保証する」
「僕の他に目を使う選手を見つけたら、教えた方がいいですか?」
「いいえ、これは私の仕事だ。そこまであなたに手間を強いることはしない」
あくまでも二子一揮主体の話だ。
は最後までそのスタンスを崩さなかった。
こういうところがあるから、を信用できるのだ。