第5章 【R指定】【呪術廻戦】七海建人の恋人事情【七海建人】
七海が振り返ると、仁美はやっぱり俯いて顔を赤らめたままだった。
「………暗いので気を付けて下さい。」
七海はそう言うと、仁美に背を向けた。
「っ?!」
駄目だと分かっているのに、迷惑でしかないと。
それでもやはり仁美は背を向けた七海の背広を掴んだ。
「………名前を教えて下さい。」
静かに、震えた声が背中から聞こえた。
「もう絶対声かけません。迷惑もかけません。だけど名前を教えてくれませんか?
……好きな気持ちはちゃんと自分で抑えるので…。」
震えていたのは声だけでなく、スーツを掴んでいるその手も震えている。
「………………。」
七海はゆっくりと仁美の方に向いた。
今度は、ちゃんと顔を上げていて、今にも泣きそうな顔が七海を見ていた。
「……七海建人です。」
七海の声は落ち着いていて、その表情からはどんな気持ちなのか探ることは出来なかった。
だけど、初めて聞いた七海の名前に、仁美はとうとう涙が溢れた。
「……好きです…七海さん…。」
もうその時は気持ちが抑えられなかった。
これでちゃんと諦めるから、最後に気持ちをどうしても七海に言いたかった。
七海に告白すると、仁美はまた顔を俯かせた。
仁美の後頭部を見ながら、彼女が泣いている事は分かっていた。
「……まだ若いので、これからもっと好きになる人が出来ますよ。」
「出来ません。今は七海さんしか考えられないです。」
最悪だ。
後腐れなく告白して去るつもりだったのに、どうしても七海に縋ってしまう。
こんな事は先程の男の様に、相手の事を考えられない自分を押し付ける行為だと分かるのに。
七海が仁美の手を払わないから。
どうしてもそれに縋ってしまう。
しばらく仁美は嗚咽を吐きながら、出てくる涙を自分の腕で拭っていた。
掴んでいる七海のスーツは離さない。
七海は何も言わずにそんな仁美を見ている。
「……ソレ、誓えますか?」
急に聞こえた七海の声に、仁美は顔を上げた。
「私しか考えられないって誓えますか?」