第5章 【R指定】【呪術廻戦】七海建人の恋人事情【七海建人】
仁美ですら恐れ慄いたのだから、その男はさぞかし恐怖を覚えただろう。
すぐに逃げる様に仁美と七海から離れた。
「……………。」
七海は離れていく男の背中を見送っていて、仁美はそんな七海の顔を見ていた。
「……ありがとうございます…。」
しばらくして仁美から七海に声をかけた。
七海はゆっくりと振り返り仁美を見た。
いつも通っているコーヒーショップの店員だと七海は分かっているだろう。
そしてその店員は無謀にも、七海を好きでいる事も。
七海と目が合うと、仁美は顔を赤くして目を伏せた。
自分が恥ずかしがっているとバレない様に、髪を耳にかける仕草で顔を隠す。
「………送りましょうか?」
七海の言葉に仁美は驚いた様に彼を見た。
『大丈夫です。』
きっと社交辞令だ。
断ってここで別れるのが大人の作法だと分かっている。
だけどどうしても、このまま離れたくなかった。
「はい……お願いします…。」
その願いが図々しいと分かっていても、仁美は目を伏せたまま言った。
その目元は少し潤んでいて、目が充血している様だった。
「行きましょうか…。」
赤く伏せられた仁美の顔を七海は見ると、そのまま歩き出した。
ここから家までは近かった。
家から近くて気に入っていたバイト先が、今日は少し恨めしかった。
「…………………。」
口数が少なく…、いや、全くと言っていいほど無言で、仁美は七海の少し後ろを歩いた。
では、その時間は苦痛だったかと言えば、全然そんな感じでは無く、たまに見上げる大きな七海の背中が、まるで自分を守ってくれている様で。
何も言葉は無いのに、仁美は安心感すら受けた。
(もっと一緒に居たい。)
そう思っても、すぐその欲望を掻き消す様に頭を振った。
七海に迷惑を掛けてはいけない。
これ以上望む事なんてない様に、仁美は自分の願望を胸の中に押し込んだ。
「もう…ここで大丈夫です。」
マンションまでほんの数メートル手前。
そこで仁美は七海に声を掛けた。