第4章 お嬢様の仰せのままに
私の誕生日当日。
もはや恒例行事だが、今年も伊地知さんの涙を踏み台に、悟と二人で休みを取れるように調節した。
一人、寝ぼけ眼で起床した休日の朝。
悟の気配は近くにない。
重力に逆らう髪の毛をなだめ、最低限の身支度を済ませてから人の気配を感じるリビングへ向かう。
「おはようございます、お嬢様」
執事仕様の黒い燕尾服に身を包んで微笑む悟に遭遇し、一瞬だけ時が止まった。
白髪と碧眼に黒が映える。
燕尾の上着の下にはグレーのベストを着込んでいて、どっかの漫画のクールで完璧な執事キャラにこんな雰囲気のがいたような気がすると考えつつ、まじまじと見つめてしまった。
「あぁ、そうか。今日は私の誕生日だっけか」
「はぁ……お忘れのようなので、まずはお着替えから」
呆れ顔で近づいてきた執事に横抱きにされ、部屋に戻される。
ベッドに座らされると、悟が何やら紙袋を持ってきてから服を取り出す。
ひと目見て良い生地を使っていると分かる上品なワンピースは、リボンタイブラウスにスカート丈が長めのレトロなデザインだ。
なるほど。私もお嬢様になりきってほしいということだと意図を汲み取る。
「……ねぇ、脱がせて?」
ベッドから立ち上がり、彼に向かって甘えて両腕を伸ばすと、
「もちろん喜んで。お嬢様を脱がせる務めなら、何度でもお任せを」
と、にわか仕込みのセクハラ執事は表情を崩さずに答える。
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