第4章 お嬢様の仰せのままに
意外と計算高い悟のことだから、紅茶一つで私が大人しくしているのなら、それが得策だと考えたのかもしれない。
そうだったとしても、私のために労力を使ったことには違いない。大人気ない私は、その行動に何一つ報いる事ができていない。
まるで、水を与えられて、与えられて、静かに腐っていく植物みたいだ。
深海に沈んでいくように、窒息しそうな心。罪悪感と愛情が錨(いかり)のように重い。
「……好きだけど、苦しい……」
悟のことになると、良くも悪くも心が掻き乱される。
いっそ、心を完全に殺して、私の人生を捧げたら彼は喜ぶだろうか。
鍵のついた部屋で彼だけの言葉に頷いて、彼の言う通り大人しく帰りを待つ傀儡になればいいのだろうか。
公私ともに彼のことを支えていきたいけれど、その前にこちらが壊れて崩れ落ちそうだ。
私が何事も割り切れる大人の女だったら、彼の負担にはならないというのに。
悟と話す度に、藻掻く度に、精神(こころ)がささくれ立ってペリペリと剥がれ落ちる。
剥がれた欠片は、悟が拾い集めて“愛情”で貼り直してくれるけれど、一度壊れた箇所は脆くなる。
私の精神は崖っぷち。ギリギリ崩壊の手前を保っていた。
「……誰かに相談しないと煮詰まりそう」
第三者からアドバイスをもらわないと冷静でいられない。
悟のことを熟知しているのは、学生の頃から一緒だった硝子と夜蛾学長だ。
硝子は私と悟の想いのアンバランスさにいち早く気付いた貴重な人物だ。現在は一緒に飲みに行って愚痴を言い合う仲でもある。
『一度、派手に喧嘩したらいい。じゃないと、ゆめかが壊れるぞ。気をつけろ、五条は色んな意味で天井なし・底なしだからな。色々と過多。言っても伝わらない時があるから、そん時は学長を召喚したらいい』
と、硝子が言ってた意味が今なら分かる気がする。
でも、私が不安や不満を訴えても躱される時はどうしたら良いのだろうか。
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