第4章 お嬢様の仰せのままに
「硝子に診てもらう?」
トーンダウンした私を心配そうに覗き込んでくる悟に、返事はせずにかぶりを振った。
踵を返し、逃げるように自室へ戻った。
唇を噛んで、こぼれ出そうな涙を堪える。
お互い腹を割って話し合えばいいのだと理解はしている。
でも、今はその余裕がない。
心が掻き毟りたいくらいに苦しくて痛い。その元凶である悟の顔を見たくなかった。
部屋に入ると同時に、ドアの鍵をすぐに閉めてベッドに寝転んだ。十中八九、追ってきた悟がドアの前に立っているはず。
私は枕に顔を埋め、声を殺して泣くしかなかった。
悔しいけれど、私は呪術師としての力量も半端で、うだつが上がらない。
自由を手にできない自分の非力さ、柔軟に解決策を打ち出せない現状、彼と対等に話せない地頭の悪さも、心底腹立たしかった。
泣き疲れて、うとうとしてしまった。
ハッと目を覚まして起き上がる。
いつの間にかベッドで眠ってしまったようだ。時計を見るとお昼の12時を回っていた。
瞬きをするたびに目に違和感がある。
ドアの外に悟の気配が無いことを確認し、そっと自室を出る。泣いて腫れてしまった瞼を冷やそうと向かったリビングはシンと静まり返り、人の気配はしなかった。
いつの間にか出掛けたのかと思った時、スマホにメッセージが届いていたことに気付く。
「任務行ってくる 外に出ないこと」
画面を見たあと、テーブルに視線が移る。
置いてあるのは、可愛くラッピングされた紙袋。
印字されている見慣れたロゴに、ハッと息を飲んだ。
行きつけの店名は話したことがないはず。
慌てて中身を取り出すと、正しくそれは私が買いに行こうと思っていた限定品の紅茶だった。
「午前中、買いに行ったの……?」
今回のように緊急で招集される彼にとって、休日は貴重なのに。恋人にそっぽを向かれ、どんな気持ちで買いに行ったのか。
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