第4章 お嬢様の仰せのままに
「ゆめかが一人で行動して危ない目に合ったコトあるし、通販とかの方が安全じゃない?」
悟が私の頬を指先で突いてくる。
彼の手を払い除けると、また首元に顔を寄せて、ちゅと音を立てて何度も吸い付いてきた。
全部、悟のせいでしょ。
そう言いかけて飲み込んだ。
私は悟の数少ない弱みの一つだと呪詛師や御三家など各方面に知られている。
裏の世界では私の誘拐依頼や暗殺依頼が後を絶たないらしい。
私の命にかけられる懸賞金は日増しに高くなっていると高専から報告を受けたことがある。
その事実を把握してから、悟は強制的に同棲に持ち込み、ますます過保護になって私の行動を制限するようになった。
任務の時は他の術師や補助監督もいるので別行動だが、休みの日は悟が傍にいる状態で軟禁になる。
私の自由は彼が用意する鳥籠の中にしかないのだ。
これ以上彼と話していると、溜まった鬱憤が爆発して感情のコントロールが効かなくなりそうだ。
腹の底からフツフツと、声にならない怒りが沸いてくる。
「……っ、悟」
これ以上は耐えられなくて、俯いたまま彼の胸を押して距離を取る。
どうせ、また余裕を貼り付けたような顔で佇んでいるんだろう。見たくない。
私だけ精神的に追い詰められていく。
逃げ場がない。
いっそ彼に嫌われたら自由になるだろうか。
別れを切り出しても、いつの間にか論点をすり替えられて理論詰めで彼に反論され、話がスタート地点に戻される。どう言葉をぶつけたら彼に響くのか。
「体調悪いから、部屋に戻る」
その一言だけ絞り出すのが精一杯だった。
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