第4章 お嬢様の仰せのままに
この茶番劇の始まりは悟の提案だった。
この間、彼の誕生日にメイドプレイをしたので、私の誕生日は悟が執事になって世話を焼きたいと言い出した。
休日の朝に急に言われ、コーヒーカップを持ったまま少しの間思考が停止した。
「ゆめかが何もしないで済むように、朝から晩まで執事姿でご奉仕してあげる」
「悟って人のお世話とかできるタイプだっけ?」
「えー、知らないの?割となんでも出来ちゃうタイプだから、僕に任せてよ」
憎らしいほど自信に溢れた発言をする悟を、冷めた目で見つめた。
どう考えても、彼の普段の行いを思い起こすと、堂々とご主人様にセクハラする変態エロ執事が爆誕する予感しかしない。
悟が淹れてくれた激甘コーヒーを飲みながら私が返事を渋っていると、セクハラしないからと先手を打って悟が条件を提示してくる。
「そこまでしたいの?」
私が問うと、ダイニングテーブルに頬杖をついた悟が何度も頷く。
「……わかった、お願いする」
ここまでくると、了承の道しか残されていない。
ここでお断りを入れても、おねだりをする子供のように、ことあるごとに話題に出されて「ダメ?」と悟に聞かれて小さいストレスが溜まるので諦めた。
“お願い”に対して、こちらが了承するのが予想より早かったのか、大きい子供の機嫌が目に見えて良くなる。
悪戯の計画を立てているような表情をする様子を見て、本当にこの人は20代後半だろうかと疑いたくなる。
当日は甘やかすから覚悟しておいてね、と後ろからハグされて髪越しにキスされる。
「いつも悟に甘やかされてると思うけど」
「いつもより何倍もゆめかを甘やかす」
「私、ダメ人間になりそう……」
「いいよ、僕に依存して」
もっと欲張って。もっと僕を欲しがって。
そう耳元で白い悪魔が囁く。
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