第4章 お嬢様の仰せのままに
あなたに出逢った瞬間から、私の平凡な生活の歯車が狂い始めた。
吐き気がするほどの甘い愛情と快楽。真綿で首をしめるように、ゆっくり、ゆっくりと私を追い詰める。
執着の糸に絡め取られ、こちらが身動きができなくなってしまった頃には、全てが彼の手の内に。
執拗で不器用な愛に私も絆され、いつしかあなたを好きになってしまっていた。
大人になると、諦めることを覚える。
それは良いことで、悪いこと。
期待して裏切られて、また期待して後悔して。一番大切なものを自分で終わらせて蓋をした癖に、生徒たちには期待していると笑って言う。
冷めた瞳で割り切った態度を見せたかと思えば、どこか子供のような精神の不安定さがチラつくこともある。
この男性(ひと)が求めているモノは、私では満たせない。いくら私が身や心を捧げても、埋まらない溝がある。
結局、あなたは過去を清算できていない。
肉欲を満たしても、戦闘欲を満たしても、その渇きがおさまることはないのだと、彼が気付くのはいつになるだろうか。
「あなたを壊すのは私。私を壊すのも悟でいて欲しい。それって究極の愛じゃない?」
あなたにもらった狂おしいほどの大きな愛情。今日という記念日にお返しするから受け取ってね。
「下す命令は一つ。私に触らないこと」
私の言葉に、執事仕様の燕尾服を着た悟が跪く。
手の甲で彼の頬を優しく撫でると、くすぐったそうに青い目が細められた。
今日は楽しい1日になりそうだと、私も彼を見て微笑んだ。
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