第3章 猛毒の情火(五条視点)
「……分からない」
分からない、とは。
体だけの関係を求めてくるような奴は嫌いだと、いっそすっぱり切り捨てられた方がまだマシだった。
予想外の方向から剛速球で投げられた答えに頭を殴られた気分だった。
精神的ショックで目の前がグラついたが、とりあえず彼女の言葉を最後まで聞こうと思い直した。
「付き合ってから、エッチばかりしてたでしょ?体の相性が良すぎるから、私もズルズル流されちゃったけど、心がついていかないまま、悟と付き合っていて良いのかなって……」
前言撤回。今、彼女の言葉を最後まで聞いたら、立ち直れない気がする。鼓動が嫌なリズムを刻み始める。
「一度、悟から離れて気持ちを整理したいと思ってる」
お願いだから、その先は言わないでくれ。
「ごめんなさい、私と……」
ゆめかの言葉の途中で、心に沈んでいた黒い闇がパチンと弾けた音がした。
一気に僕を侵食するその黒い気配は『執着』。
俯いているゆめかの額に衝動的に手を伸ばす。
彼女は僕が何をしたのか気取る暇もなく、その瞳を閉じて気絶した。
それぞれの手から飲みかけの缶が転げ落ちて中身が砂に染みていく。
単に呪力操作で気絶させただけだから移動を急がなくては。
倒れ込むゆめかを抱き上げ、自分の部屋へと足を進める。
「あんなに僕を求めておいて、都合が良すぎ」
ぐったりした彼女からの返事はないが、構わず話し掛ける。
「逃がしたくはないけど、呪詛師みたいに足を潰すわけにはいかないしなー」
物理的にゆめかの自由を奪うことは、赤子の手をひねるが如く容易い。
しかし、彼女の笑顔が見られなくなってしまうのは非常に惜しい。
「まぁ、いいや。今夜もゆっくり2人で過ごそっか」
僕のことを好きでなければ、頬を染めて優しく微笑んだりしないだろう。
僕のことを好きでなければ、彼女からキスしてきたりしないだろう。
僕のことを好きでなければ、あんなに体調を心配したりしてはくれないだろう。
ゆめかが傍にいてくれるなら、どんなカタチでも構わない。君の匂いも、体温も、その声も、体も手放す気はない。
彼女の全ては僕のものだ。
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