第3章 猛毒の情火(五条視点)
体は数え切れないほど重ねたが、相手は何が好きなのか、どうしたら彼女が一番喜ぶのか、あやふやなままだ。
お互い知らないことが多すぎる。
「そういえば、まだゆめかから好きって言ってもらえてないな……」
もしかして、僕はゆめかに嫌われたくないのか。
今までは自分の行動に影響が無い限り、誰に嫌われていても構わないと思っていたというのに。
恋人にする時も罪悪感を煽るようなことをして半ば強引に頷かせたから、現在は僕のことを好きか、はっきりさせたい気持ちはある。
でも、ゆめかの口から僕が望んでいる返事がなかったらどうする。
元彼に未練があって別れたいと言われたらどうする。
恋人じゃなくてセフレだと思われていたらどうする。
「いや、ゆめかに限ってそんなことは……」
無いのだろうか。
「本当にそうか?」ともう一人の自分が囁いて疑心暗鬼になる。
いずれにせよ、ゆめかに確かめないと分からない。
不安になるたびに、心の中に黒い感情がポタリ、ポタリと一滴ずつ沈んでいく。
それは重く、溶けずに鉛のように心の奥底に留まり続ける。
憂鬱な気分で時計を見ると、まだ23時。
明日、彼女に会うまで時間がある。それまでに考えを整理しなければ。
煮えきらなくて女々しい自分に少し苛立ちながら、力任せにゴミ箱に空の缶を投げ入れた。
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