第3章 猛毒の情火(五条視点)
「悟……そろそろ遅刻しちゃうってば」
これが幸せだとしたら、まるで綿菓子みたいだ。
甘くて、力を込めて触ったら潰れてしまいそうな、そんな脆さを秘めている。
彼女の鈴を転がすような声の余韻に浸っていると、抱きしめている僕の手に、ゆめかの手が重なった。
「先に行くね」
腕の中からゆめかがスルッと抜ける。
僕の唇に微かな感触を残し、やわらかい彼女の唇がゆっくりと離れていった。
そのまま部屋を出ていく後ろ姿を見送り、しばしの間何が起きたのか理解出来ずに、言葉が出なかった。
「え?は?キスされ……た?」
ドアが閉まる音で我に返った。
交際を始めてから、しらふのゆめかからキスされたのは初めてだった。
急に変な恥ずかしさがこみ上げてきて、衝動的に枕に顔を埋めた。
そのまま一人で悶えて、ダブルベッドで転げ回って、変な呻きが口から出てしまう。
恋の病で重症どころか死んでしまいそうだ。
いつも通り、今日もおびただしい数の任務を掛け持ちしているので、終了予定時刻は22時頃のはずだ。
ほんのちょっとだけ手荒に最速で終わらせれば、2時間は繰り上げられる。
伊地知が運転する車の中でデートコースを練るか。
そう思いながら、枕を抱き締めた。
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