第2章 中毒ロマンス(五条視点)
それから数日後。
「お嬢さん、探しものはこれかな?」
補助監督に身分証の再発行を申請しようとしているゆめかの隣で、カードをヒラヒラとかざす。
反応が見たかったので、サングラス姿で近づくと、一瞬にして彼女の顔から血の気が引いた。
どうやらポーカーフェイスは苦手のようだ。顔に“会いたくなかった”と書いてある。
「あ、ありがとう、ご、ざいます……」
震える手で身分証を受け取り、視線を一切合わせずに、渋い顔でお礼を言われた。
あんなに抱き合ったのに、嫌悪感を少しも隠さないのが癪に触った。屈んで彼女にしか聞こえない声量で囁く。
「せっかく、すり替えておいたのに」
ワントーン低く声を出したからか、ビクッとゆめかの体が怯えたように揺れる。
気付いた時にはその場に彼女の姿はなく、全力で逃走された後だった。鼻を抜ける彼女の残り香に心の奥が疼く
「五条さん、夢野さんと何かあったんですか?」
尋常じゃない光景だったのか、補助監督に怪訝な顔をされた。思わず笑いが漏れた。
あっちが逃げるなら追いかけるのみ。
「ゆめかは僕の運命の人なんだよね」
「はぁ……え?ええっ」
「恥ずかしがり屋さんで困るよー」
サラッと爆弾発言を残し、その場に居た補助監督全員から驚愕の叫びを上げられた。
さてと、探しものと追いかけっこは得意なんだよね。ゆめかの呪力はこの眼に焼き付けたから追うのは造作もないこと。
「婚約者のゆめかに手を出した野郎は、その首、僕が直々に狩りに行く……って、ウワサ流しておいて」
皆にウインクしながら部屋を後にする。
無言で全員ポカンとする中、外へ出て探索を始めるために歩を進めた。
→