第2章 中毒ロマンス(五条視点)
バーテンダーよりも、スイーツ作りの方が板に付いてるんじゃないかと思わずにはいられない。
眠気でウトウトし始めている酔っ払いにコートを着せてから横抱きにした。
彼女のバッグと、貰った紙袋を腕に引っ掛けて外に出る。近くの駅のロータリーまで行けばタクシーも拾えるだろう。
見上げると、木枯らしが街路樹の葉を揺らしていた。いつの間に、夜はこんなに冷えるようになったのか。
無限で風は防げるが、スーツ一丁ではさすがに少し寒気を感じる。
ロータリーに接しているバス停の椅子に、一度彼女を下ろして辺りを見渡す。こんな時に限ってタクシーが一台も待機していない。
彼女を自分に寄りかからせて腕時計を見ると、まだ21時を回ったところだ。
「んー……あれ?マスターは?」
微睡みながら彼女の双眸と唇がゆっくりと開く。
タクシーに乗せてあげるからね、と。僕が言い聞かせながら視線を合わせると、
「……もう、いっしょにいてくれないの」
と、男の下心を煽る言葉が耳に届く。
彼女は男と別れたばかりで人恋しいだけだ。
僕個人を求めているわけではないのだろう。傷心の女をベッドで食うほど相手に困ってはいない。
一期一会だなと思いながら、まだ夢うつつの彼女のしなやかな髪を撫でると、子供が親に撫でられた時のような、はにかんだ笑みを見せる。
「手……気持ちいいね」
夜風で乱れた髪を耳にかけてやると、グリグリと頭を擦りつけてくる。少し冷たい彼女の手に指を絡めると、遠慮がちに握り返してくるのがいじらしい。
「お兄さん、いい匂いがするから好き。なんかお菓子のニオイがする」
そう言って、キャッキャッと屈託なく笑う彼女は計算などしていないのだろう。
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