第2章 中毒ロマンス(五条視点)
僕の仕事もマスターには話したことがない。
酔っ払いの“あの子”と同業だけど、相手から振られたことはないな。己の性格の悪さを自覚しながら、二人には聞こえないように鼻で笑った。
「バーなのにパフェ出しちゃったけど、こっちが連絡した本命ね」
淡いブラウンの液体が入ったカクテルグラスが、僕の前に置かれた。手で引き寄せると、微かなカカオの香りが鼻に届く。
バレンタインデーまであと約二ヶ月ほど先だが、今年もチョコレートのカクテルを新しいレシピで作ったらしい。
「もちろん悟ちゃん用のノンアルだから、安心して飲んでちょうだい」
「……去年のと何が違う?香り?」
「そう、香りが強いカカオを使ってるから、去年よりはチョコレート感は出てると思う」
「なーんかバニラの香りが浮いてて、カカオの香りと喧嘩してる。お土産でもらった外国のお菓子で似たようなのあったな」
「香りに比重置きすぎた感じになっちゃった?」
「カカオの香りを引き立たせたいなら、潔くブラックチョコ風味にしてシナモン振ってみるとか」
「ああ、なるほど。そっちも試作してみる。ホワイトチョコのリキュールもあるし、白黒セットでカップル仕様のカクテルにするのも有りね」
甘い液体を口内で舌で転がしながら、あーでもないこーでもないとマスターで会話していると、いつの間にか黒服の女が隣にいた。
「ねーねー、それ私も飲みたい」
僕のグラスを指差し駄々をこねる酔っ払いを前に、思わず半笑いになる。
たが、レディーのおねだりを無下にする理由もない。
飲みかけで良いか聞いて渡すと、「お兄さんは優しいね」と、彼女は酒気で紅潮した頬で笑む。
間接キスで動揺するような年齢ではないが、彼女の口に吸い込まれる茶色い液体を見て、少し胸の奥がむずむずした。
どうしてか、半開きの濡れた唇に視線が行く。
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