第2章 中毒ロマンス(五条視点)
「マスター!またフラレたー!」
「はいはい、それ6回は聞いた。ゆめかちゃん、涙と鼻水が同時に出てるから拭いてちょうだい。テーブルに湖が出来ちゃう」
黒服の女がウィスキーグラス片手に突っ伏している。
今宵は静かに過ごしたい気分だったので、出直そうかと一瞬躊躇した。すると、マスターがこちらに気付いて苦笑しつつも、女から少し離れたカウンター席を指差した。
自称「性別・年齢不詳」の中性的な雰囲気を持つマスターは、客の鼻水を拭きながら甲斐甲斐しく世話を焼く。
席に着く刹那、サングラス越しに女の泣き腫らした目と視線がぶつかったが、軽く睨まれた後にプイッと顔を逸らされた。
「悟ちゃん、それ食べて待ってて」
バニラアイスとワッフルの甘い匂い。
それにキャラメルソースをこれでもかと乗せたマスター特製のパフェが目の前に降臨した。
そういえば、会合に出た食事には一切手を付けていなかったことを思い返しながら、スプーンとフォークを受け取る。
「待たせるから、あまーいサービス」
更にウインナーコーヒーを差し出されては文句のつけようもない。マスターにウインクされ、僕の扱い方を覚え始めていることに感心した。
「私の仕事が忙しいからってなんなのー」
隣の騒がしい客が拳でテーブルを叩く振動で、ワッフルの位置がズレて、キャラメルソースがパフェの下の方へ流れていく。
仕事が忙しいからといって、いい年した大人が酒に飲まれて醜態を晒していい理由にはならないだろうとは思う。
「こちとら人の命かかってるんだよ!婚約した彼女が命がけで一般人守ってる間、アイツは浮気相手とホテル行ってたとか!そんなゴミ野郎は願い下げだっつーの!」
酒のグラスを握ったまま興奮して喚いている様は哀れとしか言いようがない。
気付いたことがあり、女を六眼で横目に見る。
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