第2章 中毒ロマンス(五条視点)
スマホをポイッとベッドに投げ捨て、軽く伸びをする。
ふと視界に入ったゴミ箱の中身。昨夜の己の盛り具合が異常だったことを自覚して、なんとなく目を逸らしてしまった。
気を取り直して顔を洗いながら、昨夜のことをぼんやりと思い出す。
昨日の夕方、御三家の会合からウンザリしながら帰還した。
良くも悪くも古き伝統に縛られる加茂家。
モラル崩壊上等、完全術式主義の禪院家。
それぞれの家の当主は呪術界の大局しか見ていないので、そっちの相手は面倒でもない。
詰まるところ、シンプルに実力主義。
若造だろうと、人格破綻者だろうと、術師として一人前なら対等に会話が成り立つ。
問題は、権力の恩恵に群がる蝿ども。
「このような所で奇遇ですね」
「ご当主様の御力でどうか」
「うちの娘はどうでしょうか」
最早、聞き飽きた。こちらから聞いてもいないのに、無能な小蝿がブンブンと煩く喋る喋る。
昔からの名残か、御三家の金魚のフンの如き家門はいまだに複数存在しているのが頭痛の種だ。
会合の帰りに狸オヤジやツラの厚いババアに囲まれたことを思い出して少々イラッとした。
ネクタイを外して部屋のソファに投げつける。
スマホを見ると、馴染みのバーのマスターから連絡が来ていたことに気付く。
気分転換に新作のカクテルを試飲してみないかとの誘い。いつもなら次の日に連絡するが、鬱屈とした気分を切り替えたかったのもあり、少し着崩したスーツのまま、路地裏の隠れ家的なその店を訪れることにした。
時刻は20時前。
店の前に立ち、CLOSEになっている看板を無視して黒い扉を開く。
カランと明るく鳴るドアベルとは対照的に、薄暗い店内。明かりが点いているカウンターに向かうと、意外なことに先客がいた。
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