第1章 ご主人様の言うとおり
私も任務は直行直帰にし、ネット経由で報告書を提出した昼下がりの午後。
メイド服を詰めた大きめのバッグを傍らに置き、指定されたホテルのラウンジでおとなしく待つ。
30分しないうちにサングラスにスーツ、高そうな黒いコートに身を包んだ悟が入ってきて、ロビーで鍵を受け取っているのが遠目に見えた。白髪碧眼、身長も高いしで、自然と周囲の視線を集めている。
「ああしてると普通にかっこいいのに、なんで中身はあんな変態なんだか……」
溜め息を吐きながら、バッグを抱えて静かに彼の背後へ近付いた。
初老の総支配人に何かコソコソと話してるのが聞こえたが、また変なことを企んでいるんじゃないかと疑心暗鬼になる。
少し後ろで聞き耳を立てようとすると、くるりと悟がこちらを向いた。
「ゆめか、待った?」
「気づかれないように、こっそり近づこうと思ったのに」
「それ本気で言ってる?ゆめかの匂いも呪力も、ぜーんぶ知り尽くした僕にさぁ」
「外で堂々と変態発言しない」
本気で自分の発言に問題はないと思っているのか、怪訝な顔をする彼の後ろで、総支配人が会釈をしてくれた。
「では悟様、ごゆっくりお過ごし下さい」
「ホテリエは付いてこないでいいよ」
「かしこまりました」
チェックインもそこそこに、悟が私の荷物を片手でひょいと持ち上げる。そのまま手を引かれ、エレベーターへ。
高層のビルをゆっくりめで昇るエレベーターに2人で乗り込む。ガラス張りになっている箇所から景色を見てると、悟が腰に抱きついてきて、鼻先を私のつむじにグリグリと押し付けながら匂いを嗅いでくる。
「んんー、やっとゆめかを独り占めできる」
「いつもしてるよね」
「ゆめかの髪一本も他の野郎の目には映したくないんだよ」
「それ監禁しかないじゃない」
あはは、と私が笑うと悟がだんまりになった。
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