第2章 中毒ロマンス(五条視点)
不覚を取ったな。頭をガシガシと掻きながら何気なくベッドサイドを見ると、
――ごめんなさい。ありがとう。
謝罪と感謝の言葉が走り書きされたメモと、一晩分の宿泊費が律儀に添えてあった。
くたびれた四つ折りのお札。何となく生活感が滲んでいて、「くくっ」と意味もなく笑いが込み上げる。
「なんつーか、僕の方がヤリ捨てされた感じ?」
やわらかな筆跡の文字を指先でなぞる。
メモ書きからも彼女の香りがしそうだ。
重症だと思いながら、その文字に口唇で触れた。昨夜の彼女の痴態を思い出して、口の中がむず痒くなる。
「……ゆめかとキスしたい」
ぽっかり空いた穴に、パズルの最後のピースがはまったような感覚。理屈なしで、心身ともに突き動かされる衝動。
癒される匂いがするその肌に、いつまでも触れていたくなる。己の内側の、白くてやわらかい場所を引っかかれるような疼き。
運命の出会いとはこういうものなのだろうか。すぐにでも会いたいと、心が切望する。
今こそ、五条家の金と権力の使いどころ。
信頼できる業者へ電話でゆめかの徹底的な身辺調査を依頼し、前金をネットの口座から振り込む。
「どんな戦も情報と根回しが肝心、ってね」
これでも血生臭い呪術界を生きてきた身だ。
情報量の多さ、一歩先を見据えた動きが物を言うのは、嫌というほど味わってきた。
まずは朝一で補助監督の伊地知の個人携帯に電話し、僕のこの先一週間の任務のスケジュールと、ゆめかに割り当てられている任務と時間帯を聞き出した。
今までゆめかと接点がないため、
「五条さん、何か企んでいませんよね?」
と、さすがに訝しげな反応をされたが、
「貴重品拾ったから、直接本人に返したくってさ。ほら、僕って常識人だから、拾った身分証明書を誰かに預けるのもどうかなーって思ったワケ」
と、あくまで軽い口調で伝えると、やる気のなさそうな伊地知の返事と共に、問題なく会話が終了した。
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