第2章 中毒ロマンス(五条視点)
僕は御三家だし、ほぼ顔パスの場所が多いので必要としたことはない。
「夢野ゆめかか……2級術師ね」
等級は2級でも、抱き心地は特級だったな。
顎に手をあて、そんな阿呆なことを考えながら、保険としてゆめかの身分証を自分の懐に仕舞い、代わりに携帯の番号を書いた自分の名刺を彼女の服に忍ばせた。
彼女の柔らかな生地の服に触れていると、行為中に口唇に触れた艷やかな髪の感触を思い出して、衝動的に目の前の服に顔を埋めた。
神経を昂ぶらせるのに、甘くて癒やされる香りが鼻腔をくすぐる。そのうち、服の微かなニオイでなく本物が欲しくなった。
ベッドに入り、穏やかな寝息を立てるゆめかを腕で抱き込んで、頭に鼻先を押し付ける。
汗の匂いまで甘く感じて、腰のあたりが落ち着かなくなる。遺伝子的に相性が良い相手の体臭は好ましく感じるという、眉唾物の俗説が脳裏をよぎる。
そうこうしている内に、珍しく眠気が襲ってきてしまう。この子は絶対に逃したくないと、自分の本能が囁く。
二度寝はしない主義だが、彼女の香りに溺れて眠るのも悪くない。
朝になったら携帯の番号を交換しようと頭に留めながら、ゆっくりと泥の中に沈んでいくように意識を手放した。
翌朝、腕に抱いていた温もりが無いことを瞬時に察知してガバっと起き上がる。
カーテンの隙間から射し込む陽光が照らす先。自分の隣がポッカリと空いている。
シーツに触れると、ここに寝ていたはずの彼女の温もりがまだ少し残っているような気がした。
「あー……」
何年かぶりに熟睡してしまった。
妙にスッキリしている頭を抱えながら、時計を見遣ると朝7時を回っていた。
「やらかしたー……」
無防備に熟睡してしまったことと、一夜を共にした相手に逃げられるという衝撃の事実で、しばらく思考が停止してしまった。
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