第6章 ご主人様のお気に召すまま【後編】
ケーキを切り分けるかと思いきや、悟が持っていたのはフォーク2本だけ。
「どうせ僕がほとんど食べるから、好きなとこを取って食べなよ」
行儀悪いけどたまには良いでしょ、と肩をすくめた悟からフォークを受け取ると、私は早速苺を味見がてらに口に運んだ。
色鮮やかな苺の甘酸っぱさと芳醇な香りを堪能していると、私とは反対の方から、悟はごっそりとフォークで削ぎ取り、大きな口を開けてケーキを放り込んでいた。
一言「美味いな」と感想を呟いて、指についたクリームを舐め取り、再度ごっそりとケーキを削る悟に、慌てて私も食べるペースを上げる。
口の中に入れた瞬間、舌の上で溶ける生クリームの上品な甘さの後にやってくるスポンジ部分のふんわり優しい食感と、ほんのり香るバニラ。
フルーツの酸味とクリームの甘みが混じり合って、思わずため息が出る。
「来年は、家でゆめかとケーキ食べるか」
家族でクリスマスのケーキを食べた記憶がないのだと、小さい声で呟かれた彼の思い出。
椅子に座ったままフォークを咥えて揺らしている悟の瞳は、昔を思い返しているのか、遠い目をしていた。
悟の御両親の話は、片手で数えるほどしか聞いたことがない。
「私が悟の家族になるでしょ」
思い出いっぱい作ろう、と照れ笑いしながら彼の手を指先で突っつく。
悟はフォークをテーブルに置いてから私の手を掴み、幸せそうに目を細めて頬擦りした。
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