第5章 ご主人様のお気に召すまま【前編】
コートを脱いでクローゼットに掛けてから、ベッドに腰を下ろす。
いつの間に部屋を出ていたのか、スーツの上着を脱いだ悟が紙袋に包まれた何某かを持って立っていた。
「僕の誕生日だから、ケーキ食べようかと思ってさ」
そう言う悟だが、見渡してもベッドルームのテーブルにはケーキらしきものは無かった。
彼が手にしている紙袋も小さめで、いつもホールケーキごと軽々と食べる悟がそんなものにケーキを入れるとは考え難かった。
「悟、ケーキなんて……」
「あるでしょ、僕の好きな甘いもの」
トン、と彼の人差し指が私の胸の中心を軽く突いた。
私が要領を得ない顔をしたからか、にんまりとした悟が紙袋から取り出したものは白いものが入ったビニール袋だった。
よくよく見て、先端がギザギザになっている仕様になっている時点で気付いてしまった。
「……あれ、まさか……え、悟……ケーキって……?」
子供の頃、手作りケーキで使ったことがある。
口金を先にはめてからビニールの先の方を切り、生クリームを絞り出す袋が鮮明に思い出される。
悟の様子から、先端のキャップを外せばすぐに口金からクリームが出るように既にセットしてあるタイプのようだ。
悟の企みが今更分かって、少しめまいがした。
「ゆめか、脱いで」
言うが早いか押し倒されて、やわらかいマットレスに沈められる。
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