第5章 ご主人様のお気に召すまま【前編】
彼の誕生日、12月7日の午前中。
去年と同じく、伊地知さんを泣かせつつ2人で同日で2日間休みを取り、五条グループの高級ホテルのワンフロアを貸切にするというスケールを見せつけ、大変ご機嫌な様子の悟はホテルの支配人と話していた。
「今年もお二人の大切なお時間を過ごす場所に当ホテルを選んで頂きまして、ありがとうございます」
「いーよ、いーよ。それよりも例のアレ、部屋に用意してくれた?」
「はい、お申し付けの通りに……」
彼の斜め後ろで会話を聞きながら、“例のアレ”が何なのか分からず、一人で首を傾げてしまった。
私の探るような視線に、初老の支配人は苦笑を浮かべた。
「先に届いていた悟様のお荷物は部屋へ運びました」
「悪いね。じゃあ僕は婚約者とゆっくり過ごすから、スタッフは誰も着いてこなくていいよ」
「かしこまりました。ごゆっくりお過ごし下さい」
そう、去年と違う点は悟と婚約したこと。
婚約指輪を嵌めた方の手を、クイッと悟に引っ張られた。
質の良いスーツに身を包んだ白髪碧眼のイケメンと、片や質の良い服に袖を通していても見目が平々凡々な婚約者の女。
周囲がどう思ってるのかなんて分かり切っているけれど、すれ違う人たちは悟を注視した後で、私を二度見する行動でなんとなく察する。
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