第1章 私と坊やと、雨のち雨。
なるほど。
術式至上主義の禪院家ではこの男の居場所はないと言う事か。
一体どんな扱いを受けてきたのだろうか。
吸い込まれそうなほど黒い瞳の奥には、一体どれほどの苦しみを宿しているんだろう。
少し寂しそうな、悲しそうな目をする彼に、思わず口を開いていた。
「家を出たらいいじゃないですか」
思っているより随分と小さな声だった。
でも、男の耳にちゃんと届いていたようで彼は目をまん丸くしたあと、その唇を歪ませた。
「………お前、意外といいこと言うな」
「私も何度も家を出たいと思った事があるので。今は五条家に売られたので出ることはできませんが」
「そうだな。家、出るかな」
「いいと思いますよ。ここは貴方には少々、窮屈そうな鳥籠の様ですし」
自由に羽ばたきたい鳥がいるのなら、私はその扉をそっと開けるだけだ。
あとは自由にしたらいいと思う。
まぁ、そんな力私にはないから、こういう風に言うしかないのだけれど。