第1章 私と坊やと、雨のち雨。
坊やと手を繋いで一緒にお手洗いへと向かう。
坊やはトイレと言うよりもあの場所から抜け出したかったんだろうな。
女子トイレに入り、先に坊やを便器に座らせ、おしっこをさせる。
次に私。
「……坊や」
「なに?」
「あんまりじっと見ないで」
「なんで?」
私のトイレする姿をじっと見つめる坊や。
こんな恥ずかしいことってある?
子供と言えど、見られるのは恥ずかしい。
まぁ、普通にしましたけどね。
着物を正して、手を洗って、二人でまた手を繋いで部屋へと戻る。
その時、一人の男の姿が目に映った。
ただっぴろい庭に一人でぼうっと立つ男は自分より少しだけ年上のように見えた。
私は先に坊やに部屋に戻るように伝えた。
不満そうな顔をする坊やだったけど、彼と目線を合わせその綺麗な瞳を見つめれば、坊やは唇を尖らせながらも小さく頷いた。
サラサラの柔らかい髪の毛を撫でて、家に戻ったら一緒にお昼寝でもしようと提案したのが効果抜群だったようだ。
一人クソ長い廊下に残る私は、庭で突っ立っている男へと視線を向ける。
私の視線に気が付いた男はゆっくりと振り返った。
右の唇の端に小さな傷跡がある男は私を見るなりにやりと笑う。
「さっきのガキが五条悟か。お前は?」
「申し遅れました。五条悟様の壁役として配置されまし暁と申します。本日はそのご報告に参りました」
「へぇ、お前がね。いくつだ」
「14です」
男の質問に私は淡々と答える。
この男は禪院家の者だろうか。
だとしたらなんでこんなところにいるんだろう。
不思議に思っていることがバレたのか、男は喉奥を鳴らして笑った。
「俺は禪院甚爾」
「甚爾様ですね」
「様なんて呼ぶんじゃねえよ。この家では俺はゴミ以下の存在なんだからよ」
「それはどういう……」
「呪力がねえのさ、俺は。察しろ」
ふっと笑う男に、私は眉を寄せた。