マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第1章 光差す向こう側で
(…………やだ)
私の周りには、こんなにたくさんの人がいるのに、この世界でひとりぼっちになってしまった感覚に陥る。それがすごく辛くて、淋しい。身体が、心が悲鳴を上げている。
「っ、」
誰でもいいから証明して欲しい。ひとりじゃないよ、と。私はちゃんと生きてるよ、と。
(だから、お願いします。どうか……)
どうか――――
「私を見つけて」
「君、大丈夫……?」
その声は、とても思いやりに満ちていた。
相手を労るのに、手を差し伸べるのに、一切の躊躇いのない……そんな優しさで溢れていて、私の鼓膜に静かに響いた。
「っ、」
その温かい呼びかけに、反応しそうになるけど思い直す。
(…………本当に、私に言ってるの?)
分からない。
たまたま近くで具合が悪い人がいて、その人に話しかけたのかもしれない。……でも、もし、この世には本当に神様がいて、その神様が私の願いを聞き届けてくれたのなら。
淡い期待を胸に抱きながら、恐る恐る顔を上げる。
「!」
「!?」
すると、バチリッ、と音がしそうなほど、相手の瞳と視線が交わった。
(えっ、み、見えて……る!?)
期待していたとはいえ、今までのことを思えば、信じ難い現実に驚きを隠せない。
相手……彼は、私の顔色があまりにも酷かったせいか、黒い眼帯に覆われていない方の左目を、驚いた様に見開いた。だけどそれは一瞬で、次には心配そうに眉を下げて、真っ直ぐ伸びた綺麗な背中を少し屈めて目線を合わせてきた。その際、彼の両耳についている長いピアスが、左右に小さく揺れる。
「顔色が悪い様だけど、大丈夫かい……?」
「あっ、え……その……」
見ず知らずの私を心配してくれている。
それが身に染みるほど伝わってきて、応えたいのにまだ見えている驚きの方が勝っているみたいだ。自分の口からは、意味の持たない言葉しか出てきてくれない。
そんな私の様子を見かねてか、今度は安心させる様に優しく微笑んだ。