マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第2章 スーパーヒーロー、その名はボウフウリン
「なんやなんや!そんな褒めても、何も出ぇへんよ!」
「い、いえ……!そんなつもりでは……!ただ本当にそう思ったので、つい口から出てしまったと言いますか……!」
「そうか!そうか!つまり、君の美学は他人のいいところを褒めるっちゅうことやな!」
「?」
【美学】ってなんだろう?
この時、そう疑問に思ったのがいけなかったのだろう。
一瞬、柘浦さんから意識が逸れる。そしてあっ、と気づいた時には、彼の両手が私に伸びていて――
「うんうん!ええ!君、めっちゃええで!」
そう元気よく言いながら私の両肩を叩く動作をした。
でも、やっぱり今回も空しくすり抜けて、柘浦さんの手の感触を得ることなく空振りに終わった。
……………………
……………………
私達の間に、重い沈黙が流れる。
その時、視界の隅で桐生さんが「およ!?」と目を見開いて驚いている姿が映ったけど、気にしている余裕がなかった。何故なら、目の前にいる柘浦さんの様子に焦りを感じていたからだ。
柘浦さんは、自分の両手と私の肩を何度も交互に見比べながら、せっかく良くなっていた顔色が逆戻りになっていく。……いや、違う。私を怖がらせてしまったと、思い違いをしていた時よりも酷い状態だ。まるで、この世の物ではないものを見たかの様に完全に血の気が失せ、もはや青白くなっている。
そんな悲惨な顔色を目にして、慌てて説明しようとしたけど遅かった。
「◎△$♪×¥●&%#?!……!?」
口を開いた途端に、柘浦さんのもはや言葉になっていない絶叫が辺り全体に響き渡ったのだった。
ごめんなさい!
あれから、叫び声を上げた柘浦さんを心配した街の人達がわらわらと集まって来て、困った状況になってしまった。でも、蘇枋さんと桐生さんが上手いこと躱してくれて、難を凌ぐことができた。
2人のおかげでそんな困難を乗り越え、私のせいで怯えてしまった柘浦さんを宥めつつ、今は商店街の近くにある公園に来ている。落ち着いた場所で、私の事情をまだ知らない柘浦さんと桐生さんに説明するためだ。
そして説明を終え、最初に反応を示したのは桐生さんだった。