マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第1章 光差す向こう側で
「突然話しかけてごめんね。怪しい者じゃないんだ。ただ、君の様子がおかしかったのが気がかりで……何かあったの?」
「なにか…………あっ!」
その質問をされて、カツアゲされている男の子のことを瞬時に思い出す。私は助けてもらうために、ここにいるんだった。
「あの……っ」
言いかけて、彼の服装を目に留め慌てて口を噤む。
……他の人が見えていない以上、どうしてか分からないけど、私のことが見えているこの人に助けを求めるのが正解だろう。でも、目の前にいる彼は学ランを着ている。つまり学生だ。
カツアゲしている人達は全員大人だったから、言うのを躊躇ってしまう。しかも向こうは大人数に対して、こっちは1人。もし、逆ギレされて怪我でもさせたら申し訳が立たない。
「心配しなくても大丈夫だよ。こう見えて、オレは荒事も得意なんだ」
言い淀む私を見て何を思ったのか、彼は姿勢を元に戻し首を小さく傾げながら、軽やかに平然と言い放った。まるで、私が躊躇っている理由を知っているかの様な言動だ。
驚いて彼の顔を凝視すると、言葉同様余裕のあるにっこり顔でこちらを見つめている。その表情から、嘘は感じられない。
(…………なら、思い切って言ってみよう)
彼は嘘をつく様な人間じゃない。
出会って間もないけど、この数分のやり取りで心優しい人だと分かった。そんな彼を信じて、意を決して口を開く。
「あ、あの!向こうの路地の奥で、男の子がカツアゲに遭ってます!助けてください!」
「チッ……!」
「えっ、ちょっ!?桜さん!?」
「えっ……!?」
「あらら」
私の助けを乞う言葉に真っ先に反応したのは、目の前の彼ではなく、後ろから駆け足で近づいていた男の子だった。
男の子は髪の色が白と黒で左右に分かれていて、瞳の色も左目が金色という、所謂オッドアイの持ち主の様だ。その珍しい綺麗な色合いに、目が惹きつけられる。
そんな感想を抱かれていることなど露知らず、彼は私が指差した路地を険しい顔で鋭く睨みつけながら舌打ちをし、素早く路地に入って行ってしまった。その行動に私だけじゃなく、一緒に駆け足で近づいていた金髪の男の子も驚いて声を上げていた。