マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第1章 光差す向こう側で
「はあ、はあ……!」
息を切らしながら路地を出て、急いでカツアゲを止められそうな大人を探す。
キョロキョロと辺りを見渡すと、近くで段ボールの整理をしている2人の男性がいた。2人共優しそうな雰囲気で、体型はがっしりとしている。
あの人達なら男の子を助けてくれそうだ。
そう思った私は、駆け足で近寄り声をかける。
「あ、あの!すみません!」
「そっちの紐取ってくれ」
「んー。ほらよ」
「サンキュー」
「……?」
私の呼びかけに、反応することなく作業を続ける男性達。それに違和感を覚え、首を傾げる。
(…………聞こえなかったのかな?)
この距離で?、と思ったけど、振り返ってもらえなかったのは事実。なら、今度はさっきよりも大きな声を意識して口を開く。
「あの……!すみません……!」
「よし、終わった」
「じゃあ次は、これを車に積むぞー」
「はいよ」
それでも結果は同じで、2人の男性はまた私の呼びかけに反応を示すことはなかった。
(〜〜〜〜っ!このままじゃ……!)
そのことにどうして、と疑問に思うけど、それ以上に焦燥感に駆られる。
頭の中に浮かぶは、カツアゲされている男の子の顔。……恐怖で怯えながらも、涙だけはこぼすまいと必死に堪えている、そんな表情だった。
(早く解放してあげたいのに……!)
「っ、待って下さい……!!」
目の前で、まとめた段ボールを持って車に向かう2人。だんだんと遠くなる背中に、元々あった焦りが更に募り、男性の肩を掴んで引き止めようと手を伸ばした。
「!?」
でも、伸ばした手は肩を掴むことなく空を切った。届いていたにも関わらず。なら何故掴めなかったのか。
「………………え」
それは、私の手が男性の肩をすり抜けたからだ。
その意味不明な事実に、一瞬思考が停止するけど、次にはいくつもの疑問符が頭の中に埋め尽くされた。
(えっ、なんで……!?どうして……!?)
自分の手を凝視しながら自問する。だけど当然、欲しい答えが出て来るわけがない。