マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第1章 光差す向こう側で
(そういえば、さっきも鳴ってたような……)
朧げな記憶を掘り起こしながら頭上を見上げると、そこには大量の風鈴がぶら下がっていた。色とりどりの風鈴が太陽に反射して、眩い光を放っている。その煌めきは、真っ暗闇な空間で見たあの光を連想させた。
(…………もしかして、あの時見た光はこれだったのかな)
状況的に考えたらそうなのかもしれない。
そんなことを思いながら、綺麗な風鈴を見ていて気付いた。数多の風鈴の上に、大きな看板があることに。
「東風(とうふう)商店街……」
看板には大きく【東風商店街】と書かれていた。
……見たことも聞いたこともない商店街だ。それなのに、私はここにいる。
「……っ」
この状況が夢でないことは、身をもって証明済み。だからここに来る前……正確にはあの真っ暗闇な空間にいた時より前のことを思い出そうとした時、頭が急に痛み出した。
でも、思い出さなければどうすればいいか分からないから、私はそれを無視して記憶を探る。だけど、どれだけ探っても出てこない。それどころか、痛みが増すばかり。
「っう……」
あまりの痛さに頭を押さえてしゃがみそうになるけど、こんな道の真ん中でうずくまる訳にはいかない。他の人の通行の邪魔になってしまう。
倒れそうになる身体に鞭を打って、足を引きずりながらゆっくり進む。目指すはお店とお店の間の路地。あそこなら、しゃがみ込んでも他の人に迷惑をかけることはないだろう。
「っ……」
本来なら数秒で着く短い距離を、数分かけてようやく到着する。そこで限界が来たのか、倒れるように膝をついてしまった。でも、どうやら頭の痛みの方が勝っていた様で、膝への衝撃は感じなかった。
「くぅっ……」
頭の奥がガンガン鳴り響いて、鈍器で殴られたような強い痛みが続く。
まさか、ここに来る前のことを思い出そうとするだけで、こんな激しい痛みが押し寄せて来るなんて思いもしなかった。これではまるで、思い出すのを身体が拒否しているみたいだ。