マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第1章 光差す向こう側で
「…………痛い」
おかしいとしか言えない状況。
それは夢を見ているせいだと思った私は、確かめるために自分の頬を抓ってみる。瞬間鈍い痛みが走り、結果これが夢でないことを残酷に突きつけた。
でも、それでも諦めきれなくて、今度は目を瞑ってたっぷり時間をかけてからもう一度目を開ける。…………変わらず目の前に居続ける商店の街並み。
望みをかけてやった行動は、私を更なる絶望へと導いただけで終わりを告げた。
「…………」
いや、そもそもよく考えれば、最初からおかしいことだらけだった。
視界を覆う真っ暗闇な空間、誰か分からない謎の声、そんな中現れた眩い光……そのどれもがデタラメで、現実感のない出来事。なのに私は疑問のひとつも抱かず、むしろ普通に受け入れて、更には謎の声の正体を知りたいと思ってしまった始末。自分のアホさ加減に、ほとほと呆れてしまう。
(このことをあの子に知られたら、きっと笑われちゃうな……)
片手で頭を抱え、苦笑いしながらその姿を思い浮かべようとしてふと止まる。
「…………あの子って、誰……?」
――――チリンッ、チリンッ。
「!」
頭上で響いた複数の鈴の音で、さっき抱いた疑問が途端に霧散する。そこに疑念はなかった。