マイナス、のちゼロ距離センチ【WIND BREAKER】
第2章 スーパーヒーロー、その名はボウフウリン
(……名前ぐらい思い出さないと、蘇枋さん達呼び名に困っちゃうよね)
ずっと君、お前、あなたと呼ばせるのは申し訳ない。だから、頭をフル回転して思い出すのを頑張る。
懸念すべきは、思い出そうとすると頭が痛くなることだったけど、どうやらこれは大丈夫みたいだ。深く思い出そうとしても、頭痛に妨げられることはなかった。
(名前……私の名前は、なに……?)
これ幸いと意識を集中させて、自分の名前を思い出すことだけに専念する。周りの音が徐々に聞こえなくなり、頭の中は私が考えたいろんな名前で埋め尽くされる。でも、そのどれもが違う様に感じて、更に思いつく限り名前を挙げていった。
(違う、違う、違う……!)
思い浮かべては違うと捨てて、それを何回も何回も繰り返し行う。途方もない作業に気が滅入りそうになるけど、その度に蘇枋さん達のためを思って気を奮い立たせる。
そして、思いついた名前を出し尽くした瞬間だった。
『――――――』
(……!)
頭の奥の片隅で、何かの音が過った気がしたのは。
何なのか気になり、より意識を集中させると、それが声だと分かった。……その声が何を言ったのか聞き取れなかったのに、どうしてだろう。自分の名前を呼んでくれている様な、そんな気がした。だから、私はこの声を聞き取ることに全神経を注ぐ。
『――――――』
『――――ん』
『―――ゃん』
『――ちゃん』
そのおかげか、最初は聞き取れなかった声が徐々に聞こえて来るようになり――
『詩音ちゃん』
「……!!」
そしてついに、はっきりくっきりと聞き取ることに成功した。それにハッ、となって、いつの間にか閉じていた目を開けたその先で、私は息が詰まるほど驚いてしまった。何故なら――
「…………」
「っ!?」
蘇枋さんの顔が目の前にあったからだ。
あまりの近さに、恥ずかしさより驚きが勝って思わず飛び上がる。
(えっ……!?なに、どういうこと……!?)
突然すぎる出来事に、混乱することしかできない。でも、蘇枋さんはそんな私の心情に気づいてないのか、暗い顔がパッ、と明るくなって表情が和らぎ、姿勢を元に戻した。